受験は、子ども独りじゃ過酷。 サイボウズに学ぶ、チームの力。【第2回】
2020.12.5
子どもの幸福度ランキング、20位の日本。他国から学ぶ、教育指針とは?
- 毎年9月に発表される、ユニセフの「レポートカード」。先進各国の子どもの幸福度や子どもを取り巻く環境を調査、ランキングした報告書で、2020年も9月3日に発表されました。今回はそれをもとに日本の教育の状況を見つめ、他国の結果と背景も説明していきます。
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※英語版「レポートカード16」はこちらからダウンロードできます。
現在、日本語版は発表されていません。
日本はまずまず。
健康だけど、教育はイマイチ。
まず、気になる私たち日本について見てみましょう。日本については日本ユニセフ協会から簡単な要約レポートが発表されており、こちらから閲覧できます。
日本の結果は、次のようになっています。
(日本ユニセフ協会のレポートより引用)
調査の対象は先進国各国で、全部で41か国になります。そんな中、日本の子どもの幸福度は20位。つまり、ほぼほぼ中間、特に幸せでもなく不幸せでもない、ということでしょうか。
その内訳は極端です。身体的健康はなんと1位。飢餓が少ないうえに、欧米よりも肥満児が少ないことが影響していると思われます。さすが長寿大国、日本です。
反して、精神的幸福度は37位。ほぼビリに近い状況です。身体的には健康だが、精神的にはストレスが多いということがいえます。また、学力や職業能力を合わせたスキルでも27位とやや低め。日本の教育水準は、先進国の中で高いとはいえないのですね。
実際、政策の面でも教育への注力は23位と、お世辞にも高いとはいえない状況で、ここに日本の公教育の問題点があらわれています。政策面では健康対策も弱いのに、身体的健康が1位というのは不思議な現象です。
さて、日本は幸福度で20位。ランキングトップの国はどこでしょうか?
北欧が幸福度TOP。教育水準も高い。
残念ながら英語版しかありませんが、子どもの幸福度、世界ランキングを見てみましょう。
(レポートカード16より引用)
総合順位(Overall ranking)1位はオランダ(Netherlands)です。特に精神的幸福度(Mental well-being)で1位と日本とは真逆。またスキル(Skills)も3位と教育水準の高さがうかがえます。
総合順位で2位、3位と続くのはデンマーク、ノルウェー。イメージどおり、北欧諸国の水準が高いことがわかります。しかもノルウェーに関してはスキル1位と、教育水準でトップにいることもわかります。
それでは、幸福度と教育水準のともに高かったオランダとノルウェー、この両国についてその背景となる教育事情を紹介していきます。
たとえばイエナプラン。教育モデルが自由なオランダ。
幸福度1位、スキル3位のオランダでは、「イエナプラン」と呼ばれる教育モデルが有名です。ドイツで生まれた教育モデルですが、特にオランダで人気を集めて普及しています。
イエナプランのキーワードは「共生」。健常児や障害児も区別なく、また異年齢で編成されるクラスで、会話や遊びを通して自分を見つめ、相互に補い合って協力することを学んでいきます。決められた「優等生」をめざすのではなく、各々の個性を伸ばし、しかもそれを社会に貢献できるレベルにまで高める教育、といえます。
個性を重視するこうした教育は、子どもたちの精神的幸福度にも影響します。学歴や偏差値に縛られない教育が、ストレスフリーの効果を持っていて、日本と対照的です。
また、有名なイエナプランですが、実はオランダの全学校の3%で行われているに過ぎません。それではオランダの多くの学校もやはり日本同様に画一的な教育なのかというとそんなことはなく、公立学校でも独自のモデルを用意することが認められ、多様性にあふれています。また生徒は入学する年齢や学校を自由に選べることができます。
どんな教育モデルにも向き不向きがあります。集団指導に合った子、個別指導に合った子、直線的なカリキュラムにやる気を出す子、個性を尊重した教育を望む子。日本ではまだ公教育以外の場でしか実現していないそうした多様な選択肢が、オランダにはごく普通のことです。
子ども平等省から通学義務。
ノルウェーの徹底ぶり。
幸福度3位、スキル1位のノルウェーは大学に至るまで、学費が無料です。また、義務教育は16歳までで、その後21歳までも学校に通うか雇用されるかのどちらかが義務化されていて、ニートを生まずに社会参加させる積極的な姿勢が行政にあります。
さらに16〜19歳に該当する高等学校からは一般教育と職業教育に分かれるように、職業としてそのまま活用できるスキルを身につける教育体制が整っており、その辺りもスキル1位の背景にあります。
ノルウェーの学校の特徴としては小学校から高校までどの段階でも全体に占める私立校の割合が10%未満と低く、大学も公立学校の方が多いということがあります。この点は日本とは様相が違います。公立校がほとんどなのに子どもそれぞれの個性が発達するということは、オランダ同様に公教育が画一的でなく柔軟だともいえそうです。
また学校教育に限らず、政府の教育への関心は高く、ノルウェーには「子ども平等省」があり、貧困や民族・宗教などによって教育に不平等が出ないよう、すべての子どもたちに同じだけの教育機会を与えることをめざしています。オンライン教育の機会も早くからありました。
最も教育熱心な国はルクセンブルク?
実は、そんなノルウェーやオランダよりもさらに教育を重視している国があります。以下は幸福度ではなく、子どもの幸福のための政策や環境の充実度を比べたランキングです。
(レポートカード16より引用)
全体ランキング7位のルクセンブルク(Luxembourg)では、政策(Policies)の特に教育(Education)で1位になっています。これは国の政策として教育に力が注がれていることを示しています。
背景に、ルクセンブルクという国の地理があります。ルクセンブルクはフランス、ドイツ、ベルギーに挟まれたヨーロッパの小国です。フランスとドイツの文化に大きな影響を受けており、公用語はフランス語、ドイツ語、ルクセンブルク語の3つ。このすべてを義務教育で学びます。
また人口における外国人比率が多く、およそ1/3が外国人です。そうした外国人との意思疎通や、グローバル教育の観点から公用語3つに加えて英語も学校教育で学習し、場合によっては外国人人口の多くを占めるポルトガル語を解す人も。つまり、多くの人が4言語以上を使えるのがルクセンブルクの国民性です。
英語ですら大変な日本人からしたら不思議な世界ですが、複雑な民族構成だからこそ言語能力が高い。またその能力を身につけるため、教育に力を入れているのがルクセンブルクです。しかも幼稚園から義務教育。日本では信じられません。
まとめ
オランダ、ノルウェー、ルクセンブルクの先進性から学ぶとするならば、日本にも子どもそれぞれに合わせた複数の教育モデルの選択肢と、より本格的な言語教育、またそれらを平等に受けられる環境整備が必要なのではないでしょうか。
日本では長らく学校教育が昔から形を変えずにきたために、塾や習い事、家庭教師など民間教育が子どもの個性に合わせた教育モデルを提供する役割を担ってきました。これからもバリエーション豊かなオルタナティブ教育の登場を続けながらも、学校教育も柔軟に変化していくことを期待します。
メガスタプラス編集部