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教えて!先生!

2020.9.9

教育から学びへ!—デジタルハリウッド大学大学院 佐藤昌宏教授に聞く【後編】

EdTech業界に早くから取組み、ご自身でも教鞭をとられていらっしゃる、デジタルハリウッド大学大学院 教授 佐藤 昌宏さん。2000年代前半からEdTechビジネスで起業され、現在は官庁にアドバイスをされるお立場でもある佐藤教授のインタビューから、学びの未来についてお話を伺います。
これまで学校教育がどのように偏移してきたか、またこれからどのように偏移していくと考えられるか、後編では、私たちが考えるべき学びの未来についてお話を伺います。それでは佐藤さん、よろしくお願いします! 
<前編はこちら>

日本のIT環境はバツグン。
一気に遅れを取り戻す!?

—「日本の教育は遅れている」という意見を多く聞きます。産官学連携のプロジェクトにも多数参加されているEdTechの専門家として、どんなふうに感じていらっしゃいますか?

「EdTech」は2009年くらいからアメリカから生まれた言葉です。それまではeラーニングという言葉が主流でしたね。eラーニングというのは、パソコンを通してコンテンツを共有しながら学習をする仕組みのことですけど、テクノロジーが進歩したことで、eラーニングにはおさまらないイノベーションが出てきたんです。
確かに日本は世界に比べて、教育改革が遅れていたのは事実です。経済停滞がそういわれているように、教育業界の失われた20年といってもいい。でも私は、最近は日本の学校教育も大きく動き出していると思いますよ。

最近の最も大きなニュースは、2019年12月に文科省が発表した「GIGA(Global and Innovation Gateway for All)スクール構想」。これは日本中の生徒1人に1台、デジタルデバイスを配るという構想です。しかも、ただ機械を配るだけでなく、希望する学校すべてに高速インターネット環境を用意する。クラウド環境も整える。この構想になんと3年間で約5,000億円かける予定です。こんな国はほかにないですよ。

つまり、ここ20年世界に遅れをとっていた日本が、向こう数年で一気に世界トップに躍り出る可能性があるんです。少なくとも、環境面では。この勢いを受けて、今まで学校教育にリードしていた民間教育も逆にあたふたし始めました。使いこなせるかどうかは別問題ですが、まずはICT環境が充実していく。デジタルデバイスが教室で当たり前の光景になる。学校教育にとってビッグチャンスです。

<GIGAスクール構想について、もっと詳しく>

STEAM化、自立化・個別最適化、学習基盤づくり。
学校教育がめざす姿とは?

—学びそのものが変わっていく、どんなことが変わるのか教えてください。

実は2030年、今から10年後ですね、に向けて、今の教育や学校という制度に縛られず、自由にあるべく姿を考えようと始まったプロジェクトがあります。「未来の教室」という名で、経産省、文科省、総務省の3省連携でここ3年進んでいる、大きなプロジェクトです。そしてその未来の教室がめざす姿として、3本の柱が考えられました。

—佐藤教授も参加されているプロジェクトですよね。その3つの柱とは何ですか?

1つはSTEAM化といって、簡単にいうと、探究をしながら能動的に自分から答えのない問題に取り組める人づくりです。ワクワクをベースに興味のあることを自発的に研究できるような人をめざします。これが3つのなかでも最も上位に位置する考え方です。

そして2つ目と3つ目が、個別最適化と学習基盤づくりです。つまり、1人ひとりに合った学びをいつも届けられる仕組みづくりことです。デジタルで学ぶと記録が残りますね。その記録をもとに、1人ひとりの興味や学習レベルを測り、それに合わせた学びのコンテンツを届けることが可能です。そうすることでいっそう、STEAM化が進みます。

つまり、1人ひとり違う興味を積極的かつ効率的に学んでもらうために、その仕組みづくりをテクノロジーが解決する。それが未来の教室のめざす姿です。これからの教育は個人のワクワクを伸ばす教育で、テクノロジーがその助けになるというわけです。

<未来の教室やSTEAM化について、もっと詳しく>

コロナに気付かされた
自ら学ぶことの必要性。

—GIGAスクール構想も未来の教室もそうですが、民間教育が増えた今でも、子どもたちの学習を国の決定が大きく左右していますか?

まさに今年は新型コロナウイルス対策として、全国一斉休校になりました。失われた3ヶ月、4ヶ月という人もいますが、私は教育を見直す非常にいい機会になったのではと考えています。また実際、学校って三密の極みですし、あの頃は子どもが重症化しにくいことも分かりきっていなかったので、仕方ない判断であったように思います。休校期間は学びがとまった3ヶ月とも言われました。ですが実際は「学びはとまらなかった」というのが正しいところです。子どもたちにとっても「学校って何だろう」「授業って何だろう」と考える機会になったと思います。会社勤めが在宅勤務になったことで大人たちも「会社って何だろう」、「仕事って何だろう」って考えましたよね。

実際、私自身の働き方から言うと、正直コロナの前と後で全く変わっていません。以前から、オンライン会議の機能は使っていたし、必要な時だけ対面するようにしていました。直接会わなくてもいい打合せ、対面しなくてもいいものはオンラインで十分であるということ。今、国の会議もオンラインでやっています。結局「無駄」と「贅沢」という側面が見えたという事なのではないでしょうか。対面でコミュニケーションを取るという事がどれだけ贅沢だったのかも見えてきます。社会全体として理解するきっかけになったのではないでしょうか。

—確かにそうですね。子どもだけでなく、親や先生の意識も変わらざるを得なかったのではないでしょうか。

まだまだ少ないと思いますが、学校やカリキュラムに頼らずに、自分で自律的に学ばないとダメだと気づいた子もいる。学校での勉強を強制されなかった分、子どもたちが学びに自覚的になったんですね。「学びをとめるな」というムーブメントのなか、無償提供されたオンラインコンテンツや学習教材も数多くありましたので、自発的に学ぶ子が学べない3ヶ月ではありませんでした。

いろいろ考えて試行錯誤してくれた先生たちのおかげで、子どもたちには少しでも学びの機会が提供されました。この休校期間は、大人も子どもも「学びに自発的になる」、与えられた3ヶ月だったんです。休校期間の間、自分たちの存在意義を考えなかった先生や学校があったとしたら、それが問題ですね。学校って何のためにあるのかと、考えたこと自体、今回のこのコロナのことがなかったら、生徒も保護者も学校の先生も、立ち止まって考える機会がなかったと思います。

学びの未来、ITを中心に
やるべきことが見えてくる

―オンライン学習は世界的にもどんどん取り入れられていくと考えられますが、その可能性について、どんな風に思われていますか。

例えば、「Edtech補助金」という制度があります。これには、今存在する学校の10%以上が申し込みを希望しています。最初は、ITの導入も慣れない事が多くて失敗も山ほどあると思います。それも含めて学校教育にデジタルデバイスを取り入れていくことで、次の展開に進むことが出来るのです。

学習者視点で考えるという事が大事だと思います。これからはパソコンのボタンを一つで、すぐ学べる時代になります。それらを提供する企業も、試行錯誤でやりつづけることが大事ではないでしょうか。文部科学省でも学習履歴(スタディ・ログ)など初等中等教育における教育データの標準化について話し合われています。そのような流れから、公教育と民間のオンライン学習がつながる未来が広がるのではないでしょうか。

―オンライン学習は、学びの未来を変えていくと思いますか?

テクノロジーの基本的な可能性を追求するだけで、大きなイノベーションだと思います。昔はスマホを一人1台持つことなんて想像もしなかったけれど、今は当たり前にみんな使っています。そんな風に「IT」も徐々にコモディティ化していきますよ。だから、これまでの「常識」を子どもたちに押し付けるのではなく、大人たちも自ら学ぶことですよね。だって、自分たちの経験則が通用しなくなったわけだから。そしてそこには、ITを中心に考えていくことが必要だと思います。

終身雇用が崩壊し、高度成長期から考えれば現在の日本の局面は間違いなくダウントレンドになっていることがわかるけれど、その中でも相変わらず公務員や大企業というところに優秀な人材が集まろうとしているのは、そのダウントレンドに拍車をかけてしまっているようなものとも言えます。偏差値などで人の能力を評価してきた、それが通用する時代があったことも事実だが、盲目的な側面が強いですよね。だから、私たち大人は、自分たちの経験してきた時代から現代へ前提条件が変わったことを改めて理解することが必要です。未来は誰にも分からないと言いますが、「状況が変わった。」という事を理解して、新しい状況に「慣れていく」ということです。

AIが人類の能力を超えると言われているシンギュラリティも起こると思います。でも、私はあまり気にしていません。それよりも、今はまだ、その時代にいくための「土台」が出来ていない段階です。一人1台のデジタルデバイスが、これから配布される段階なのです。もし、それらを進めるのに10年かかると言うのであれば、それをもっと短い時間で可能にする事、それが私たちの仕事なのだと思っています。

—貴重なお話、ありがとうございました! これからの教育に私自身、ワクワクすることができました! これからも私たちはオンライン学習で日本の教育格差の課題に取組み、その可能性を広げていこうと思います。

この記事の執筆者:
メガスタプラス編集部