教育から学びへ!—デジタルハリウッド大学大学院 佐藤昌宏教授に聞く【後編】
2019.3.5
【後編】なぜ、幼児が英検準2級を?小学3年生レベルをめざすわけは?大丸、松坂屋グループの幼児教育。
脳科学に基づき、眠っている脳の
電気回路をつなげてあげたい。
脳と心の「器」を広げてあげたい。
- ●大丸、松坂屋やパルコの経営、GINZA SIXや上野フロンティアタワーといった不動産事業の展開など、多彩な事業を推進する『J.フロント リテイリング㈱』(連結売上1兆1000億円超)。
- ●「くらしのあたらしい幸せ」を発明するマルチサービスリテーラーとして、いよいよバイリンガル幼児園の経営に乗り出す。JFRこどもみらい株式会社のスローガンは、「世界に羽ばたく力を育む」だ。
- ●すでに複数園を展開する「キッズデュオ インターナショナル」=KDIのフランチャイズパートナーとして、2019年春、「Daimaru Matsuzakaya Kids Duo International 青葉台」を開園する。
詳しくはこちら - ●同社の加藤篤史社長(肩書きは取材当時のもの)に、「これからの時代に必要な幼児教育とは何か」について、お話いただきました。
こんにちは。メガスタプラス編集部のハラダです。バイリンガル幼児園「Daimaru Matsuzakaya Kids Duo International 青葉台」を開園する加藤篤史社長(肩書きは取材当時)に、「これからの時代に必要な幼児教育とは?」を聞くインタビュー、後編です。(前編の記事はこちら)。
後編では、そもそもJ.フロント リテイリング・グループは、幼児保育事業で何を実現しようとしているのか、を明らかにしたいと思います。
― ハラダ:JFRこどもみらいは、幼児保育事業で何を実現したいのですか?根っこの目的を教えてください。
加藤社長:私たち大人自身も、世の中の日進月歩の激しい変化に、戸惑ったり、途方に暮れたり。グローバル化とテクノロジーのめまぐるしい進化で、数年後どう変化するのかさえ、予測できない時代ですよね。子どもたちが成人する20年後は、AIなどによりすさまじい環境変化が起こっていることでしょう。ハラダさんも、不透明感に不安を感じませんか?
― ハラダ:確かに、そうですね。子を持つ親御さんだけではなく、私のようないずれ持ちたいと考える若い人も、「子どもをどう育てれば、激しい変化スピードに適応できる人間にできるのか」、不安です。自分自身も不安なのに、これで子どもを持つとなると。。。
加藤社長:誰しもそうなのだと思います。これから訪れる未来は、誰にも予測なんかできませんから。未来が見えないならどうするか?どんな未来になろうとも、現実をしっかり受け止め、明日を切り拓けるたくましく賢い子に育てるしかないんですね。
子どもにとってこれからの時代に必要となる「基礎能力」を提供できるかどうか。ここが、幸せの分かれ道になると思います。
― ハラダ:だから、「世界に羽ばたく力を育むバイリンガル幼児園」なのですね。では、どんな力を子どもに授けることで、未来を切り拓く力を養おうとしているんですか?そもそも「幼児教育」をどう位置付けているのですか?
加藤社長:私たちは、幼児教育を通して、子どもたちの器を広げたいと考えています。私たちは、「バイリンガル教育」を教育の柱に据えていますが、子どもたちの進路を明確に示したいと考えているわけではありません。
― ハラダ:進路を示すのではなく、器を広げる、ですか?人間性の器、ですか?
加藤社長:はい。幼児期に器を広げてあげられれば、もう少し大きくなった時に、さまざまな学びが吸収できるようになるのです。しかし、器が小さいままだと溢れてしまい、学びを吸収できなくなる。大きくなったとき、挑戦しやすいように、そして、成功する可能性を高めてあげられるように、幼児教育は器の拡張がかなめなのだと考えます。人間の基礎力、土台の幅を広げる時期ともいえますね。
― ハラダ:具体的にどうすると、子どもの器は広げられるのでしょうか?
加藤社長:私たちは、「脳の電気回路をつなげる」と表現しています。脳みそはタンパク質のかたまりですが、神経細胞は一千億個超あって、じつに膨大な神経ネットワークを張り巡らせています。
人工ではつくり得ない超高性能のコンピューターネットワークのような働きをしているんです。そして神経細胞同士が、電流を流しあってつながることで、非常に複雑で多種多様な情報伝達という、脳のとてつもない機能を可能にしています。
コンピューターネットワークと同じく、脳が活発に動いているとき、脳内を電気が駆け巡っているわけですよ。
― ハラダ:そういえば、脳に特定の電流を流すと、記憶力がよくなるというアメリカの研究ニュースを見たことありますね。
加藤社長:脳の活動は、電気活動なんですね。ある分野で結果や成績が出ているとき、それはその能力に関する電気回路をつなげることができているわけです。つながっている電気回路の数が増えれば、その分の能力を開花させられたということですから、器が大きくなったということになるんです。
この電気回路は、大人になればなるほど、つなげることが難しくなります。子ども時代に、眠っている回路をいかにたくさんつなげてあげられるか。そして、その回路をいかに強くしてあげられるか。それが大人の責任と役割であり、私たちは科学的にそこを追求したいのです。
変化の予測ができない未来を、
たくましく生きられる子を育てる。
― ハラダ:科学的に脳の器を大きくすることが、現代社会で求められる人材の育成のベースになるわけですか?
加藤社長:未来の予測が難しい現代社会では、きちんと自分で現状を認知し、そこに基づいて合理的に思考できる人材が求められるのです。いわば、「変化対応しながら、変化のたびに、アップグレードできる脳」ですね。そのためには、幼少期に脳の電子回路をたくさんつなげてあげて、脳と心の器を大きくしてあげることが重要だと考えています。
― ハラダ:KDIには、「英検凖2級」や「IQ144」、「小学高学年レベルの運動能力」といった結果を持つ園児がいますね。この子たちは、器が大きくなっているということですね?一方で加藤社長は、「子どもたちの進路を定めたいわけではない」とおっしゃっています。どのような想いがあるのでしょうか?
加藤社長:私たちは、❶知能教育 ❷英語 ❸運動と、3つの教育を組み合わせて思考力を育んでいます。すべて脳がつかさどる能力ですから、どれかに偏った状態では電気回路の広がりも偏っていることになります。器を広げるためには、3つをバランスよく育むことが重要であり、柔らかい思考力育成には欠かせないのです。 英語については、地球言語ですから、大きくなってから頭だけで学習するのではなく、幼児期から国際人としてのベースを習得することは、大きな意味を持ちます。
― ハラダ:英語は、「世界に羽ばたく力を育む」に直結するんじゃないんですか?
加藤社長:親御さんの中には幼児期から、お子さんの将来に対する明確なビジョンを持っておられる方がいらっしゃいます。でもそれは、ほんのごく一部なんですよね。
共通する願いはやはり、「子どもの可能性を広げたい」「何を選択するかわからないけど、選択できるだけの基礎能力を身につけさせたい」ということだと思うのです。
― ハラダ:能力が足りないと、選択そのものをあきらめざるを得なくなってしまうこともありますもんね。
加藤社長:そういうことですね。全員がグローバル人材になるわけじゃないし、なりたいわけでもないと思いますが、なりたいと考えたときに、なれる器を用意しておこうということです。いまの幼児教育のフィールドでは、私たちのように考える事業主体はあまり多くないと思います。そこに、私たちが進める幼児教育事業の社会的価値があるのだ、と信じています。
― ハラダ:なるほどお。さて、そもそも話になってしまうのですが、なぜ、百貨店事業を展開する会社が保育事業に参入しようと考えたのですか?
加藤社長:大丸、松坂屋はそれぞれ300年、400年といった歴史があります。その長い歩みは、本当に様々なお客様の幸せを追求してきた歩みでもあるんですね。求めてきた本質はなんだったのかというと、ずっと変わらず「人々の幸せ」を追いかけてきたということです。
そこで今、小売業のリーディングカンパニーを目指してきたJ.フロントリテイリングは、「くらしのあたらしい幸せを発明する」という新しいビジョンを掲げ、小売だけでなく新しい価値を提供しようとしているわけです。
― ハラダ:脳の電気回路をつないで、子供の器を広げること。それが、これからの幼児教育における「あたらしい幸せ」であり「あたらしい価値」だということですね?
加藤社長:はい。先が見通せない現代ならではの不安、子どもの未来に対する人々の不安を解消し、どんな未来が来てもたくましく明日を切り拓ける子を、たくさん輩出していきたいのです。
― ハラダ:長きにわたって百貨店事業を展開してきた、御社ならではの強みってありますか?
加藤社長:ひとつは、「お客様第一主義」の風土が根付いているところです。決定事項ではありませんが、保育料の支払いをクレジットカード決済にしたり、保護者と保育士との情報交換を園独自のアプリ上で行えるようにしたり、顧客の利便性向上のためにいろいろ模索したいですね。異業種ならではの視点で、教育業界の慣例を良い意味で創造的に壊していきたいと思っています。
また、小売業のナレッジを生かして、子どもの好きな色や興味のあるもの、洋服のサイズなどを、おじいちゃんおばあちゃんと共有できる仕組みなんかも作れたらいいですね。職業体験の場も含めて、「施設内で保育する」という視点を超えて、当社らしい付加価値をつくっていきたいです。
私たちは新しい文化づくりを得意にしてきました。たとえば、小売業においては販売に留まらず、百貨店の黎明期においては、エスカレーターやエレベーターといった当時の海外における最先端文化を紹介したり、戦後はDCブランドブームを日本でいち早く起こしたり、パルコはシブカルという新しい文化を築いたり。こうした新しい価値の提供には、教育事業を展開する上でもこだわっていきたいと思いますね。
― ハラダ:予測不可能な未来を生きる子どもたちに、「器を広げる幼児期教育」が大切だということが、よくわかりました。いち生活者として考えると、御社のような異業種が教育業界に参入することで、新しい価値づくりへの期待が高まるな、と感じました。長時間、本当にありがとうございました!
ハラダ