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2020.8.19
教育現場インタビュー#2【前編】かわいい子には世界を旅させよ!—インフィニティ国際学院大谷学長に聞く。
- 高校3年間を通して世界20カ国以上を旅するカリキュラムを提供しているインフィニティ国際学院。提携する通信制高校と併用することで、通常の高等学校と同じように高卒資格を取得しながらも、海外でフィールドワークを何度も体験できる仕組みを取り入れているそうです。
この学院の発案者でもあり、現在は学長でもある大谷真樹さんに、「今こそ必要な教育とは何か」、そして「Withコロナ、Afterコロナの教育の姿とは何か」をうかがいました。
脱・昭和型。
変化に対応できる子を育てなきゃ。
編集部:—大谷学長は「ジーパン学長」として、形にとらわれない柔軟な行動で知られていますよね。ユニークな経歴をお聞きしていますが、そもそもどうして教育現場へ?
1996年にインフォプラント(現・マクロミル)という、会社を立ち上げました。当時はまだ登場したてのインターネットを活用したマーケットリサーチの会社です。しばらく東京にオフィスを構えていたんですけど、社員が500人くらいになると家賃がすごいことになって。パソコンとネットさえあれば場所を選ばないビジネスなので、「別にアフリカでもどこでもいいじゃん」と思って。結局、さすがにアフリカには行かずに八戸にバックオフィスを構えることになりました。
実は八戸は僕の生まれ故郷で、人口20万人の小さな都市です。そこで新卒採用や地域活性化プロジェクトにあたっていました。小さな街ですから、産学の距離が近く、すぐに大学と連携することになりました。それが当時は定員割れを起こしていた八戸大学(現・八戸学院大学)だったんです。2008年から客員教授や学長補佐として学校改革を手伝っているうちに、ついには2012年から2018年には学長まで務めることに。今では人気もV字回復して定員割れを起こすことはなくなりました。
編集部:—生まれ育った街でご自身に刺激を与えてくれる若手人材を求めるうちに、自然に大学と出会ったわけですね。そこから一度も離れず、10年以上の長きにわたり教育現場に身を置いているのはなぜですか? 教育現場が好きだったんですか?
学生と接していてわかったのは、あまりにも視野が狭く、視座が低いということです。自分の意思で何かを極めたいとか、何かを成し遂げるために学びたいとかではなく、偏差値や入試日程の都合で学校を選んでいることもあるという事実が、かわいそうになりました。
どうしてそうなってしまうかというと、親が受けた教育、先生が受けた教育と同じ教育を受けているからなんです。なんなら、還暦近い僕自身が受けた昭和型の教育とまったく変わっていません。時代が変わっているのに、子どもへの教育は昔と変わらない。
編集部:—偏差値主義、学歴主義などは、昔からずっと変わりませんよね。
そうなんです。海外では変化に対応できる子どもを育てているのに、日本は変化を嫌い、保守的な教育をしている。そのせいで、与えられた問題は解けるんだけど、予期せぬ問題は解けない、しかもそれを避けようとする大人に育ってしまっています。
これではグローバル社会のなかで日本が滅ぶとまで思いました。国の未来は、それを支える子どもたちの教育にかかっていますから。つまり、僕自身が受けた昭和型の教育への反省と罪滅ぼしの気持ちこそ、従来とは異なる教育を届けたいという強いモチベーションにつながっているんです。
世界の今とリアルを体感し、
考える力を養う。
世界を旅して学ぶインフィニティ国際学院。出発時。
編集部:—昭和型ではない新しい教育のかたちとして、世界を旅するフィールドワークを考えたのはなぜですか?インターネット業界出身の学長ですから、IT教育に重きを置いているのかと思っていましたが。
実はインターネットビジネスを始める前は、テレビ局で報道番組に関わっていたんです。70カ国以上、ジャーナリストとして世界をまわりました。たとえばインドのカオスのような群衆に混じったり、紛争地で苦しむ子どもの叫ぶ声を聞いたり。僕自身、そのなかで「もっと知りたい」「もっと真実に迫りたい」「人々に世界のリアルを伝えたい」「そのためにはもっと調べなければ」という深い学びの欲求が生まれました。五感で体験することで、探究心が生まれることに気づいたんです。
「リフレクション教育」の一環で、学生である彼らが先生になったら』というテーマで英語を使ってのゲーム説明、コミュニケーションの取り方などを実際に体験しました。
それからもう1つ気づいたこと。それは、受験勉強で習った公式や年号などの知識を活用する場面がないこと。もちろん教養としては重要です。けれど、それは生きる力そのものには直接関係していません。学校に通えないようなスラムの子どもたちでも、なんとかして生き延びようという「考えて生き抜く力」は日本の子どもたちよりもよっぽど強い。それを日本の子どもたちにも知ってもらおうと思いました。
編集部:—カリキュラムを拝見して、おもしろいのはアジア、アフリカ、ヨーロッパという3つの旅先です。IT先進国のアメリカなども入っていいように思いますが、この3つ、どうやって選んだのですか?
アジアは今最も勢いがある。生き様というか、ダイナミックな成長を見られます。たとえばカンボジアでは現地企業のインターンシップとして商品開発を体験。実際にイベントで販売するまでを体験させて、チームでのビジネス経験を積ませます。ネパールでは農家にホームステイをします。ホストは英語も日本語も話せないけれど、1人1家庭に泊まるんです。言葉が通じない環境で突破力を養う狙いがあります。
編集部:—それは厳しい(笑)。だからこそ大事な経験になるでしょうね。それからアフリカとヨーロッパを選んだ理由はなんでしょう?
今、成長のピークを迎えているのはアジアですが、おそらく次に成長するのはアフリカ。未来の可能性を見るためにアフリカにも行きます。たとえばザンビアでは孤児院でストリートチルドレンのケアにあたるなど、NPO、NGOとの取り組みがメインです。アジアでは商売を、アフリカでは社会問題解決を学ぶ、というわけです。
そして最後にヨーロッパを入れているのは、先代の世界史やアートに触れてほしいからです。ヨーロッパ、アジア、アフリカを体感することで、過去・現在・未来の成長現場を知ることができると考えています。
みんな違って、みんないい。
勉強も、いろんな選択肢があっていい。
インフィニティ1期生は、入学から約1年フィリピンに英語留学。フィリピンの現地校(幼稚園から高校まである附属校)とコラボで開催された日本文化を伝えるため文化祭で、生徒たちは焼き鳥を売ったり、和太鼓を教えたりしながら文化交流を楽しみました。
編集部:—志望する生徒や保護者にはどんな方が多いのですか? やはり好奇心旺盛な子が多いのでしょうか?
1期生の7割ほどはやり直し組でした。すでに高校1年生になっていた子がそこを辞め、もう1回うちで1年生から始めています。進学校に入ったはいいものの、自分の思う学びと受験のための勉強のギャップが激しくて壁にぶつかったような子たちですね。非常にチャレンジングで個性豊かな子が多く、しかも首都圏以外の全国から集まっていますよ。
編集部:—都会だけでなく、全国からということに意味がありそうですね。やはり地方も含めて全国の学生を救いたい、という思いがあるのですか?
地方の子どもたちってかわいそうなんです。東京だと学校からドロップアウトしても、マクドナルドなり図書館なり自宅外で時間を潰すこともできるんだけど、田舎だと学校に行けなくなると他に行き場所がなくて、家に引きこもる以外に選択肢がないんですよ。コミュニティも小さいから、すぐ噂されてしまいますし。
君がいてもいいんだよと寄り添える場、話を聞いて励ましてあげる場、そしてその子に合った勉強を提供できる場が必要だと思います。2018年にできたインフィニティ国際学院もその1つ。同じ年にできたゼロ高等学院、ルークス、あるいはすでに2016年からあったN高等学校など、民間の新しいかたちの学校が次々生まれています。今までの公立・私立という2択ではない幅広い選択肢が、既存の学校に馴染まない生徒たちを救うことを願っています。
編集部:—オンライン教育も、まさにそうですよね。塾や予備校、家庭教師に変わる、新しい仕組みだと思います。インフィニティ国際学院でも導入されていると聞いています。後編ではそのあたりも含めて、オンライン教育についてうかがっていきます!
ナビゲーター授業の様子。定期的に行われるゲスト講義やワークショップで世界で成功するためのマインドセットしています。世界で実際に活躍する各分野の先人たちの生き方に触れることで、夢やキャリアを見つける動機付けをしています。
<後編に続く>
メガスタプラス編集部