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教えて!先生!

2020.7.11

教育現場インタビュー#1【後編】Withコロナの時代におけるオンライン授業。どうやって始めるべき? 上越教育大学附属中学校に聞く。

こんにちは。メガスタプラス編集部です。新型コロナウイルスによる全国一斉休校、その初日からオンライン授業を続けた新潟県上越市にある国立大学法人上越教育大学附属中学校。ICT推進担当の大崎先生へのインタビュー、後編です。(前編はこちらから)

後編では、4月から副校長として赴任された熊木徹先生も参加してくださいました。熊木先生は7〜10年前にも上教大附属中学校で教鞭を執られた経験があり、学校の伝統を踏まえながら、Withコロナの時代における教育について教えてくださいました。

それでは、大崎先生、熊木先生、後半もよろしくお願いします!
<後編のもくじ>

◆ オンライン授業の黎明期、拡散期、開発期
◆ AI時代を主体的・共創的に生き抜く
◆ Withコロナの時代におけるオンライン授業とは?

オンライン授業の黎明期、拡散期、開発期

―編集部:さて前編では、3月の1ヶ月間に実施されたオンライン授業についてみっちりお話を伺いました。その後、新学期を迎えられて、ゴールデンウィークが始まるまでの2ヶ月間でオンライン授業の内容や方法は進化したのでしょうか?

大崎先生:進化しています!簡単にこれまでの流れを表にまとめてみたのでご紹介しますね。


引用先:大崎先生が作成された説明資料
3月と4月では「自己調整」という点で授業の構成を変更しました。オンライン学習の実施は、「自己調整」が発揮される良い機会だと捉え、4月以降は午前中3時間に5教科(国数社理英)の授業を設定しました。一方、午後は2時間続きで、音美体技家の課題や探求できる時間に充てるよう時間割を変更したのです。

正直、3月までは年度の総括といった観点から、今までの探求学習(くわしくは前編をご覧ください)を続けることができました。しかし、新年度に入り新しい学年になったら、新しい課題に向き合わなければならない。とはいえ、基礎の習得だけでもつまらない。先生たちで探求する要素を出してもらい、可能な限りオンラインでも探求できるようにしたんです。

―編集部:4月には新1年生も入学してきましたよね。そもそもiPadの使い方が分からない状態だったと思いますが、1年生はどのように慣れていったのでしょうか?

大崎先生:当校におけるiPadは、保護者の方にご購入いただいているんですね。ですから、「保護者の持ち物」であるという考えから、まずは新1年生の保護者に来ていただき、使い方を説明しました。翌週には、1年生もZoomで朝学活を始めましたが、特に何も教えていないのに、スムーズに学活ができていて驚きましたね。

熊木副校長:大人が想像している以上に、生徒たちはiPadを使いこなしていますね。生徒たちは柔軟性が高いので。当校の生徒が特別なのではなく、私立や公立関わらず、生徒たちはこういった最新デバイスにすぐ馴染むのではないのでしょうか。

ただ、1年生は小学校を卒業したばかりですし、「友達ができるかな?」という不安もあったと思います。心のケアには気をくばりました。授業中にZoomで質問部屋を用意するなどして、先生に気軽に相談できる環境を設けたんです

大崎先生4月後半には先生方にも在宅勤務の命令が出ましたので、テレワークでの授業にもトライしました。

AI時代を主体的・共創的に生き抜く

―編集部:大崎先生のお話のなかで、「自己調整」や「創造性(クリエイティビティ)」というキーワードが挙がっていました。附属中は現在、どんな生徒の育成を研究していらっしゃるのですか?

大崎先生:現在の研究テーマは、「AI時代を主体的・共創的に生き抜く 〜自己調整、創造性、人間性に着目して〜」です。AI時代とは先行きが不透明な、未来さえも予測できない時代のこと。そんなAI時代を生き抜く生徒を育成するために、自己調整、創造性、人間性に着目した手立てをみんなで模索しています。

―編集部:今まさに私たちが直面しているWithコロナの時代も先を予測するのが難しい時代といえますね。

大崎先生:「受け身になってテストで良い点をとって、良い企業に就職して」というような、私たちが過ごした昭和・平成の正解モデルはもはや成り立ちません。自らやりたいことや、とんがっているものを見つけて、主体的に取り組む必要があるんです。それがテーマにある「主体的」という意味です。一方で、「自分が、自分が」と自分のことばかり考えるのではなく、周りの人々と共に創造(共創)していく力も必要だと考えているんです。

―編集部:先ほど4月からは「自己調整」に着目して課題を与えたとおっしゃっていましたが、「自己調整」とは具体的にどういうことですか?

大崎先生:「自己調整」とは、学び続ける意欲を持ち、学び方を身につけている状態のことを指します。下の図は、ある生徒の3月3週目の記録です。その記録に、「目標設定」について言及している箇所はみどり色、「手段構築」についてはオレンジ色、「比較検討」については青色を塗ってラベリングしていきます。そうすることで、自己調整を客観的に分析することができるのです。


引用先:生徒による3月3週目の記録

生徒に対して行ったアンケート結果では、「目標を決めて取り組んだか?」という質問に対する回答が時期を追うごとに上昇し、休校期間中こそ「自己調整」を養うことができるのではないかと考えました。

目標設定の自己評価によるアンケート結果

―編集部:私も、この春から在宅ワークに切り替えて、日々、自分で目標を設定し、その日のうちに達成することが大事だと実感していたところです。同じですね。

大崎先生:私なんかは、生徒たちにあまり制限せず、自由に時間を使って探求させるんです。1年生は「締切はいつまでですか?」と律儀に聞いてきますが、スケジュールを立てるところから自分で考えてやってみてほしいと思うんです。

熊木副校長:オンライン授業は、まさに自己調整を強く発揮できる場だと思います。

―編集部:「自己調整」、大切な力ですね。「創造性」については前編でくわしく伺ったので、次は「人間性」についてくわしく教えてほしいのですが。

大崎先生:「人間性」は、今まさに必要とされている能力だと思います。理科担当の私はこの春、副校長と教頭と花壇を耕して、キャベツを植えたんです。中学生なのにキャベツ!?と思うかもしれませんが、モンシロチョウが卵を産みつけてくれたらいいなぁ、その過程を見せてあげたいなぁと思って。それから、3年生と一緒にミニトマトを育てようと計画しています。iPadで観察記録をつけて、生徒同士互いに「いいね!」を送りあって。植物や生き物を育てる中で、理科という教科を通じて人間性を養ってもらいたいと思っています。

withコロナの時代におけるオンライン授業とは?

―編集部:当初は、「afterコロナ」という言葉が流通していましたが、最近では「withコロナ」という言葉が定着したように思えます。この新型コロナウイルスという目に見えない難敵と今後も共存していく上で、オンライン授業は必須であると思います。先生方はどのようにお考えですか?

大崎先生:今、教育の大転換点にいると思います。でも、私は悲観的ではなく、前向きに捉えています。これを機に、オンライン授業も交えながら、最適な教育の形を模索していきたいと思っています。

熊木副校長:私が7〜10年前に附属中学校に在籍していたころは、夏に林間学校へ出かけ、グループごとに小屋をゼロから手作りし、電気のない生活を通して、創造性や人間性の発揮を試みていました。しかし、コロナ禍では校外学習へ出かけることができません。キャベツやミニトマトの栽培で、たとえオンライン上のグループ活動であっても、人間性を発揮してもらえたら嬉しいですね。

―編集部:休校が明けて通学できるようになった今も、第二波、第三波を警戒しつつ、新しい生活様式への適応が求められています。Withコロナの時代では、オンライン授業は当たり前の形式になるのでは?と思うのですが、先生方はどう考えますか?

熊木副校長:選択肢の1つとして、オンライン授業は外せないでしょうね。実際に、休校中にオンライン授業を経験してみて、コロナ禍だけでなく自然災害時においても今回経験したオンライン授業は役に立つと感じました。たとえば、大雪で電車が運休してしまった日はオンライン授業に切り替える。台風の予報から計画休校でオンライン授業とする、など。必要に応じて柔軟に取り入れていきたいですね。

―編集部:これからオンライン授業を導入したり、ICT教育への取組を強化したりする学校や学習塾が増えると思います。そのとき、最初の不安要素として挙がるのがセキュリティについてだと思うんです。貴校では、どのようにセキュリティ問題を解消していますか?

大崎先生:当校で生徒たちに持たせているアカウントはいくつかあり、例えば「G Suite for Education」がよく使われていますが、個人情報に関わるもの、成績に関わるものは、生徒アカウントで入れる場所には絶対に置いていません。職員が扱う情報を置くネットワークは、そもそもまったく別の仕組みのものを使っています。Zoomも一時期、セキュリティが問題視されましたが、入室を許可制にしているため必要以上に心配することはありません。

熊木副校長:セキュリティの問題とは少し違いますが、1つのアプリケーションに依存しないことが大切だと思います。2つ、3つ候補を用意して、保険をかけておく。オンライン授業で使うシステムはライフライン。「使えないから明日の授業はなし!」とはいきませんからね。

大崎先生:当校では、オンライン会議システムはZoom、Google Meetを使い分けていますし、もっとクローズドな関係で心のケアをしたいという考えから、LINE WORKSの導入も検討しています。

―編集部:子どもたちのリテラシーを不安視する大人も多いと思います。そんなにお行儀良く使えないんじゃないかな?と。正しく使ってもらうために、ルールを設けたり、厳しく指導したりしているんですか?

大崎先生:確かに、毎年、新入生の中で、生徒たちが自由に投稿できる掲示板に不適切な言葉を発信したりというのはあります。そのときは、「個人的にメッセージをやり取りする場とは違うんだよ。教室の黒板に落書きしていることと一緒なんだよ」と伝えて、理解してもらいました。

―編集部:子どもたち、えらいですね!やはり、使いながら慣れていく、やっていいことと悪いことを覚えていく、というのが有効なのでしょうか。では次に、これからオンライン授業の準備を始めようとする教育関係者の皆さんにアドバイスをお願いします!

大崎先生:この数ヶ月の経験を通して、私は以下の3つのポイントが大事だと感じています。

①オンラインとオフラインのバランスを大事にすること
②楽しみながらチャレンジすること
③生徒も、親も、先生も、頑張りすぎない
これまで対面で50分行っていた授業を、そのままオンラインに変えるのには無理があります。だから、組み直して、再構成して、いらないものは削いで、オンラインに適したものに作り替えていく必要があります。ぜひ楽しみながらトライしてもらいたいと思います。ただ、頑張りすぎないでくださいね(笑)。

―メガスタプラス編集部:受験ジャパンでは、「教育格差をなくす」というミッションのもと、学びの未来を探求し、全国のお母さんお父さん、教育関係者のみなさんに、有益な情報をお届けしたいと活動しています。オンライン授業は「教育格差をなくす」上で有効な手立てだと思いますか?

熊木副校長:オンライン授業には教育格差をなくすという側面と、教育格差をさらに広げるという両方の側面があると思っています。ただプリントを丸投げしておくだけでは格差は広がるばかり。教員は使い方を深く追求していかなければなりません。

当校でも、オンライン授業における成功パターンを1つ1つ増やしている真っ只中です。横で見ている立場ではありますが(笑)、まだまだ工夫の余地はあるなぁと。大崎先生を筆頭に、これからも生徒たちの自己調整、創造性、人間性を育んでいきたいと思います。

大崎先生:今回、「コロナ禍でも学びを止めないんだ!」という強い気持ちでオンライン授業を始めました。特に家庭教育の格差を懸念していて、塾に通っていない子でもiPadがあればドリル学習ができるよね、という考えからのスタートでした。テクノロジーを使えば、いわゆるお勉強はできるんです。ただ、それだけでは面白くない。上教大附属中に脈々と受け継がれてきた「教育の探求」を大切に、ドリル学習だけなく、これからも探求学習に挑戦し続けていきたいですね。一歩一歩、チャレンジあるのみです。

―編集部:大崎先生、熊木副校長先生、貴重なお話を本当にありがとうございました!

予測不可能な未来を生きる子どもたちにとって、上越教育大学附属中学校で行われている「探求学習」がとても価値の高い学びであることがわかりました。またその探究学習をオンライン授業でも続けることで、「子どもたちの学びを止めない」ことの大切さも痛感しました。

これから、オンライン授業を始めようと考えている学校や学習塾の皆さん。参考になったでしょうか。新しいことへの挑戦には必ず苦労が伴います。しかし、これからの時代、オンライン授業を行わないという選択肢はありません。先行事例から学びを得て、子どもたちの未来のためにもトライあるのみ。皆さんの挑戦を応援しています!

この記事の執筆者:
メガスタプラス編集部