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教えて!先生!

2020.9.5

教育から学びへ!—デジタルハリウッド大学大学院 佐藤昌宏教授に聞く【前編】

EdTech業界に早くから取組み、ご自身でも教鞭をとられていらっしゃる、デジタルハリウッド大学大学院 教授 佐藤 昌宏さん。2000年代前半からEdTechビジネスで起業され、現在は官庁にアドバイスをされるお立場でもある佐藤教授のインタビューから、学びの未来についてお話を伺います。

EdTech。教育(Education)× テクノロジー(Technology)を組み合わせた造語です。教育領域にイノベーションを起こすテクノロジーを使ったビジネスや企業をそう呼びます。オンライン家庭教師のメガスタもその1つ。

EdTechは2015〜2022年の市場の成長率は約18.3%。2022年時点では40兆円を大きく上回る市場成長が期待されるなど、今まさに伸び盛りです。コロナ禍を受けての一斉休校や外出自粛を受け、今ではますます注目されています。


これまで学校教育がどのように偏移してきたか、またこれからどのように偏移していくと考えられるか、前編では、そのテーマに含まれるキーワードについてお話を伺います。

キーワード1「教育を科学する」
テクノロジーで教育効果を可視化する。

—EdTechという言葉が注目され始めたのはここ数年のように思いますが、EdTechに注目されたきっかけはありましたか?

「EdTech」は2009年くらいからアメリカから生まれた言葉です。それまではeラーニングという言葉が主流でしたね。eラーニングというのは、パソコンを通してコンテンツを共有しながら学習をする仕組みのことですけど、テクノロジーが進歩したことで、eラーニングにはおさまらないイノベーションが出てきたんです。

私は起業した当初、自身の役に立つと考え、コーチングを学びました。どんな企業でも重要なのは人材ですので、その学びを研修という形で提供しようと思ったのです。通信業界出身の私は、企業の人材育成向けのシステムを開発し販売しました。単に研修をするのではなく、その人の行動変容が見えるシステムをつけたんですよ。成果の見える化ですね。大目標、中目標、小目標を入力し、そのなかでも特に今重要な目標や、どこまで達成したかが分かり、またコーチとのセッション記録も残せるシステムです。企業の人材育成って今もそうですが、費用対効果が見えにくいですよね。企業って営利団体なのに、そこを考えないのはおかしい。それでシステムをつくることにしました。テクノロジーで可視化することで、効果が分析できる。教育を科学する、と言うことに本格的に取り組み始めた機会になりました。そして、「教育を科学する」という根本の想いは変わらず更に探求するため、経営していたベンチャー企業の出資元のデジタルハリウッドへ戻り、新しく大学院の立ち上げに参加した形です。

キーワード2「教育から学びへ」
学習者中心主義。教わるのではなく、学ぶ。

—社会人教育から学校教育にフィールドを移されたわけですね。

その頃から、社会人教育から学校教育へと軸足を移したのは私だけではありませんでした。経産省です。というのも、現在、日本経済は衰退期に入ってきていますよね。成長した国が衰退に入るのは自然なサイクルです。アメリカを中心とした他国は、ベンチャー企業主導でイノベーションを起こし、新たな成長産業を生むことで衰退を逃れていますが、日本ではなかなかイノベーションが起こらない。既得権益、歴史のある伝統的な学習指導をしている民間企業は正直イノベーションを起こせないで来たと思っています。民間も大きく変われないのは、最初儲からないという点もあるのではないかと思うんですよ。そんな風にこの20年、民間教育は、護送船団式の教育を続けて、受験産業を拡大させてきたと感じています。

このままでは、日本の将来を担う若手が育たないと気付いた経産省は動き出しました。イノベーションを起こすための力を「社会人基礎力」と位置づけて、その育成に乗り出したんです。が、どうもうまくいかない。最近ではMOOCを使った社会人教育、スカイプ語学指導などを広げたベンチャー企業が頑張っていますが、このままでは手遅れになると感じた経産省は、学校教育の改革に参入しました。政府が今掲げている成長戦略「3本の矢」の1つに規制改革があり、そのなかに教育改革も含まれています。

—イノベーションが起こせる人材となるために必要な教育に変えるわけですよね。

重要なトレンドが「教育から学びへ」です。教育は「教える・育む」と書きますよね。主語が教える側なんです。そうではなく、「教育から学びへ」です。教育は「教える・育む」と書きますよね。主語が教える側なんです。そうではなく、主語は学習者であるべきです。私たち大人は経験があるだけに、どうしても子どもに「教育」をしたくなります。もちろん、それは当然子どもたちを想ってしていることなんですけどね。ただ、私たちが経験してきた時代と、今の時代では前提条件が違うわけです。高度経済成長のうえで行われてきた受験競争、大企業、終身雇用、年功序列などの習慣はすでに崩壊した。つまり、私たちのやり方や経験をただ教えることの価値は薄れていきます。そこで、学習者中心主義のもと、「学び」を広めるべきという考え方を進めています。将来を担う学習者が幸せを追求し、学習者視点で考える。受け身ではなく自発的に学ぶ姿勢が、イノベーションにつながりますから。

キーワード3
「IT知識を高めることは現代人の責任」
せっかくのテクノロジー、使わなくちゃ。

—なぜ学校教育の現場では、なかなかデジタル化が進まないのでしょうか。

私たちがこれまでに得た経験でも、確実に予測できる未来があります。少子高齢化、人口減少などもありますが、IT化もあります。これは統計上、確実に言えることです。パソコンがない会社なんて存在しませんよね?当たり前に普及している技術を使わない、取り入れないなんて、あり得ないんですよ。

たとえば今、身のまわりに普通にある電気。これも200年前の日本にはありませんでした。でも今では、当たり前になっています。当然に仕事ではパソコンを使いますし、日々の生活でもスマホを手放せませんよね。同じように教育の世界にも、IT技術を使うことは珍しくなくなっていきます。

—インターネットを始めとするIT技術について、「子どもに使わせるのが心配」という声も多いように思います。どんな風に捉えていけばよいのでしょうか。

ITリテラシー教育というと、ITの危険性ばかりを伝えるように思われがちですが、そうではなくて、よいことも悪いことも含めて、ITでできることを教えるべきだと思います。ITの仕組みをすれば、その可能性を知ると同時に、出来ない事や限界も分かるようになります。その知識がないから、不必要にITを疑ったり、怖がったり、反対に信じすぎたりするなんてことが起きるんです。

例えばログを活用して、一人一人にあった学びを割り出してくれたり、ビッグデータを活用することで、個人に合った成長を描くことが出来るようになるのではないかと思っています。そうすると、将来はそのような、情報を取り扱える人材が必要になっていきますから、その処理が出来る人を育てていく必要があると思っていいます。家庭の親に関しても、テクノロジーを使った教育を受けていないから、分からないという不安で戸惑っている面が大きいと思います。でも、考えてみてください。どこの会社に行ってもコンピュータがない所なんて今どきありませんよね。

身の回りのことをテクノロジーでどれだけ便利にするか。それを追求して考えていけば、テクノロジーが出来ないことがわかるようになって来ますよね。何でも新しい制度や技術が入ってくると戸惑うものですが、進んできた時代や技術が戻ることはありません。そう考えると、多くの人のITリテラシー不足の側面も、結局は時間の問題だと思っています。

もちろんすべてをテクノロジーに変える必要はないですよ。テクノロジーにはできないこともあると思います。ITの可能性と限界が理解出来れば、本来人間がやるべきことが確実に見えて来ます。ITを教育に活用することは、人間が出来ることを知るための、探る旅かもしれませんね。それでもテクノロジーの利活用は、現代を生きるすべての人の責任です。ようやく日本も現時点でここまできました。国もハンドルを切りました。しかし、もう一歩、自治体や学校設置者が了解して動かないと話が進みません。せっかくITが発達したのだから、それを使わないのはもったいないと思います。少なくとも私は、その思いで、学びに関わってきました。これからもそのつもりです。

—力強いメッセージありがとうございます。EdTechに関するキーワードについてお話を伺いました。多くの方に響くと思います。後編では、学びの未来について伺っていきます!


<後編につづく>
この記事の執筆者:
メガスタプラス編集部