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編集部

2018.11.13

シンガポールと日本の教育、5つの大きな違いとは?現地のママ先生に聞きました!

今回は、シンガポール在住で、現地で最高峰のインターナショナルスクール『ユナイテッド・ワールド・カレッジ 東南アジア・カレッジ(以下、「UWCシンガポール」)で日本語教師として活躍する森田藍子さんにお話しを伺いました。

2人のお子さんのママでもあり、現在はお子さんもUWCシンガポールに通っている森田さん。シンガポールの学校で、実際に先生として勤めて感じた「日本との違い」についてお話しを伺いました。

- 森田 藍子(もりたあいこ)さんの略歴
インタビュアーとして家族や子どものグリーフケア×アート、ターミナルケアに関する執筆活動をおこなう。2014年よりシンガポールに移住。現在UWCの日本語母語クラスの教師として働く。可愛い生徒たち、そして二人のやんちゃな息子たちと、毎日が冒険。もみくちゃの日々。
▼メディア連載記事一覧
https://www.glolea.com/ambassador/ai-sg
▼著書 『コルビュジエさんのつくりたかった美術館』(※旧姓五十川として)
https://www.amazon.co.jp/dp/4904700007

世界最高レベルのインターナショナルスクール、UWCシンガポールとは?

― 横山:さっそくですが、UWCシンガポールとはどんな学校なのか、お聞かせいただければと思います!

森田さん:はい!よろしくお願いします!

UWCシンガポールは、特にハイスクール(高校生)のレベルが非常に高いことで知られており、毎年、世界中のトップレベルの大学に多くの卒業生を送り出しています。教育システムは日本でも今、文部科学省が推進している国際バカロレア(IB)を採用しています。

また、UWCとは「United World Colledge」の略で、世界中にUWCグループに加盟している学校が17校あり、その中では先生の移動もそれほど頻繁にではないにしても時々行われています。最近日本でも、軽井沢にあるISAKがUWCに加盟しました。

シンガポールにはUWCは二つあり、Doverキャンパスは約3,000名、Eastキャンパスは約2,500名の生徒が在籍しています。世界79カ国以上の国から、K1(4歳)〜G12(18歳)、日本の学年で言えば、幼稚園の年中さんから高校生までの幅広い学年の生徒がいます。

スポーツ関係の施設面も素晴らしく充実している

屋内の運動施設

最新鋭のプール設備も完備

子どもたちが伸び伸び遊べるスペースも充実

― 横山:かなり大規模な学校なのですね。日本人も多いですか?

森田さん:シンガポールのインターナショナルスクールの中では、日本人の数は比較的少ないほうではないかと思います。イメージは1クラスに日本人は1人いるかいないか。多くても2人。これは学校側が、特定の国籍や文化に偏らないように調整しているからです。

学校全体で日本人の生徒は、Doverキャンパス、Eastキャンパス、それぞれ100名弱くらい在籍していて、私はここでK1-G6までの生徒に、母国語としての日本語を教える仕事をしています。

小学校の「教育目標」はなんだろう。

― 横山:日本の小学校との大きく違う点は、どんなところでしょう?

森田さん:いろいろあると思いますが、一番大きいのは「教育目標」だと思います。この学校に通うことで、どんな人に育って欲しいのか、という願いですね。

― 横山:教育目標ですか。

森田さん:はい。UWCの教育目標は、Webサイトなどにも書かれていますが、英文だと、“A SHARED MISSION 「uniting people, nations and cultures for peace and a sustainable future」”とあります。

「世界中の人々が国や文化を超えて平和的に手を携えて、持続可能な、より良い未来を創り出す人を育てます。」

実は、私自身は、数年前、息子の入学を検討して学校見学に行った時、この言葉にしびれてしまったのです。こんな短い言葉なのに、未来への明確な意志と、夢があるなと。

他にもいくつかキーワードがあります。

例えば、“diversity” 多様な言語文化考えの中から、新しいものを創造していく力を育成する、ということや、“Support changemakers” 生徒だけでなく、このUWCに関わる全てのメンバーが、世界を少しでもより良い方向へと変える意思を持ち、それをやろうとする人を応援するコミュニティでありつづけることを明確に語っています。

UWCの入学説明会は、自分の子どもがどんな風に育ってほしいのか、ということを、改めて考えさせられた体験でした。

このキーワードは、学内のあらゆるところに貼られていますし、日本の年中さんにあたるK1でも毎日のように語られています。

たとえば子ども同士が喧嘩になったときにも、「UWCのミッションからしたら、あなたは今何ができると思う?どのように解決したらいいと思う?喧嘩する前よりも、良い関係を築くには、どんなアイディアがある?」というように、普段からよく使われています。

私はこの問いかけが好きです。
うちの息子たちは本当にやんちゃで、私も大人げなく、我が子たちとはよく喧嘩をしていますが(笑)、少し冷静になったときに、私自身もよくこの言葉を自分自身に使います。「たくさん怒ってしまったけれど、怒る前より、もっと良い関係を築くには、どんなアイディアがあるかしら?」と。

自分にこの問いかけをすると、私の頭に生えている角が、少しずつ引っ込んで、心が落ち着いてきます。

衝撃!?「勉強が大好き」な子どもたち

― 横山:実際に、UWCシンガポールの現場で、驚いたことや日本と違いを感じたことはありますか?

森田さん:そうですね。一番は、UWCシンガポールに通っている子どもたちが「勉強は楽しい」と思っている子どものほうが、嫌いだと思っている子どもより圧倒的に多い、ということでしょうか。

― 横山:それはすごいですね!何か秘密があるんでしょうか?

森田さん:「Infant」 つまり、年中さんから小学校1年生までに達成したいとする学校側の目標に、「学ぶ喜びを喚起させること」というものがあります。

子どもは本来、学ぶことが大好きです。そこが大前提です。
小さい子どもの質問は「ねえねえ、ママ~はなに?」ですし、そのうち「ママどうして?」に変わりますよね。

そしてそのうち、ドヤ顔で「ねえ、知ってる?~って~なんだよ!」と教えてくれるようになります。

つまり、子ども本来の自然な姿は、「Good learner 夢中で学ぶ人」、なのです。

でも、私も含めて親としては、自分の子どもに関しては、それを引き出すことが難しい時があります。学ぶことを押し付けたり、彼らを必要以上にコントロールしようとすると、彼らの本来のエネルギーを奪ってしまうようなことが起こります。この辺りは、UWCには、自然に子どもたちの力を引き出し、引き上げていくことができる素晴らしい先生がたくさんいらっしゃるので、私自身もそれに近づけるように勉強中です。

ただ、最近気が付いたのは、ドヤ顔のすばらしさですね。

― 横山:ドヤ顔!?

森田さん:そうです。私は子どもたちのドヤ顔が、本当に可愛くて大好きなのですが、あの顔は可愛いだけではなくて、素晴らしく大きな可能性があるときなのだと気が付きました。

ドヤ顔で何かをやっているときは、彼らが一番学んでいるときです。
さらに学んだことをシェアしたい、見てほしいときですよね。

ドヤ顔は、自分自身をリスペクトしている、自己肯定感が強くないと出ない顔です。自分で「オレって、ワタシって、ほんとスゴイ、こんなことができるようになっちゃった」って思っているわけですよね。

この時に、ちゃんと「面白―い!」とか「カッコイイ!」って誰かが言うのは本当に大切だと思います。
喜びをもって学び続けるためには、小さい時に自己肯定感をしっかりと養うことや、その喜びや面白さに共感してもらう誰かがいる、というのはとても大切なことだと思います。

教える前に「学ぶ意味」を徹底して教える。

― 横山:他に日本と違うな〜という点はありますか?

森田さん:何かを教える前に、なぜそれを学ぶのか「学ぶ意味」を徹底して教えるのも特徴だと思います。
私はUWCシンガポールで母語としての日本語を教えていますが、何か新しいことを始めるときには必ず、これをなぜやるのか、これを学んで、私たちはどこに向かうのかを、生徒たちにも必ず伝えます。

― 横山:そうなんですね。具体的にはどんなことを伝えるのでしょうか?

森田さん:例えば、授業で、芥川龍之介の『蜘蛛の糸』に取り組むとき、私たちは「なぜ文学を学ぶのか」、という話を先にします。

でも、そんな小難しいことではなくて…「芥川龍之介くんがクラスにいたらどう?先生は、ちょっと怖い感じがするなぁ」と、本人のお顔を見せながら話します。

生徒たちも、友達になれるかな、どうかな。
話しかけづらい感じがするな、いや、意外と冗談たくさん言いそうな顔だ、とか、意見が出てきます。

横山さんはどうですか?

― 横山:うーん、芥川龍之介さん、ちょっと癖がありそうですよね(笑)。

森田さん:私もそう思います(笑)。この目つきとか、すごく特徴的ですものね。何を考えているのかちょっとわからないような感じもしますしね。

それで、生徒たちには、

「これからみんなで取り組む「文学」というものは、この芥川龍之介くんが、どんなことを考えていて、どんな風に世界を見ているのか、芥川くんの目を使って見ることができる、人間が発明した素晴らしい魔法の一つなんだよ。

この魔法を使えば、あなたのお友達でなくても、その人のことが好きじゃなくても、仲良しじゃなくても、共感できなかったとしても、自分の目だけでなく、他の人の目から世界を見ることができるの。すごいでしょ?」

というような話をします。

― 横山:なるほど。「なんでこれを勉強するかわからないけど、言われたからやる」ということにはならないと。

森田さん:そうです。子どもたちひとりひとりをちゃんとリスペクトする、その上で伝えるというのは、とても大切なことだと感じます。だって私自身も嫌ですもの、なんでこれやらなくちゃいけないのかわからないのに、命令されたからやる、というのは。

これは、私の授業だけではなく、他の授業でも必ず行われていることだと思います。

歴史上の人物になりきって日記を書く?
思考力をトコトン鍛える驚きの課題とは?

― 横山:他に、日本の学校との違いを感じる点はありますか?

森田さん:そうですね。やはり、知識の詰め込みではなく「考える力」と「自ら学ぶ姿勢」を育むプログラムが多いと感じます。

― 横山:具体的には、どんなものがありますか?

森田さん:例えば、歴史だと、日本では「○○年に○○が起きた」みたいな、単に年号や出来事を暗記する学習が中心じゃないですか。

でも、こっちでは「歴史上のこの人物になったつもりで、○○年○月○日の日記を書きなさい」というような課題が出るんです。

― 横山:どういうことでしょう?!

森田さん:「その人物になりきる」ためには、彼が何をした人で、どんな考えを持っているのかを理解し、かつ、その時に、世界がどのように動いていたのかを知る必要がありますよね。 面白いけど、自分でたくさん調べて学ばないとできない課題なんですよ。

― 横山:確かに。たくさん暗記していても、できない問題ですよね。

森田さん:これは一例ですが、思考力や自ら学ぶ姿勢、これを小さなころから徹底して鍛えていくのが、UWCのプログラムの特徴だと思います。グループ学習や、グループとして学んだことを作品にして発表する機会も多くあります。

それは、より良い未来を創造する人間を育てたいという願いからであり、そのためには、自分と違う人、多様性の中から新しいものを創造する体験を、たくさんする必要があるからです。

人は、自分と同じ考えや、思いを持っている人とは、比較的容易につながることができます。でも、自分と違う考えの人が現れたとき、その違いを不快に思って排除するのか、それとも、その違いを面白がれるか。そこには必ず大きな学びがあります。自分とはかけ離れた「他者」と、もみくちゃになって何かを創り出すこと、それを体験しなければ学べないものがあるので、グループ学習をとても大切にしているのだと思います。

宿題というものは出ないのですが、学校でやるだけでは終わらなくて、小学校の高学年になると、みんな家でも何かしら勉強しています。大変そうですが、結構楽しそうですよ。

― 横山:UWCシンガポール、おそるべし!森田さん、今日はありがとうございました。

森田さん:こちらこそありがとうございました!

<まとめ>「勉強大好き」な小学生だらけ!
日本とシンガポールの学校(UCWSEA)、大きな5つの違い!

今回、森田さんからシンガポールのインタースクール「UWCSEA」のお話を伺って、日本の普通の小学校と比べると、次のような5つの違いがあるように感じました。

  • ① 教育目標が極めて具体的
  • ② 勉強が大好きな子どもだらけ(「学ぶ喜びを喚起」)
  • ③ 子どもの「自己肯定感」を高めるコミュニケーションアプローチ
  • ④ 学習の前に「学ぶ意味」を徹底して教える
  • ⑤ 思考力と自ら学ぶ姿勢を重視した課題

海外のインタースクールというと、どこか遠い世界の話のような気がしてしまいます。

ですが、こうして「違い」を眺めてみると、日本か海外かは関係なく、「子どもに対してどうアプローチするのか」という本質的なことばかり、ということに気づきました。

むしろ、日本でも、優れた先生や家庭教師は実施しているアプローチかもしれません。

今後も、世界のさまざまな教育をリサーチし、皆さんにもお伝えしていきたいと思います!乞うご期待!

UWCシンガポール 公式サイトはこちら

この記事の執筆者:
横山 弘毅